後から良いスタッフが応募してきたが、前の応募者の採用内定を取り消すことができるか?

石川 恵
石川 恵 社会保険労務士

院長のためのクリニック労務 Q&A

 

~退職・解雇編2~

 

Q:後から良いスタッフが応募してきたが、前の応募者の採用内定を取り消すことができるか?

A:場合によっては可能です。ただし、採用内定通知を出した後の取り消しは「解雇」に該当する場合もあり、相当の理由が必要です。

 

取り消すことができる内々定

 一般に採用内定といってもその手続きはさまざまですので、その法律効果も同一ではありません。

 「面接の場や電話での“採用の方向で考えています”“内定と考えてもらってよいです”など婉曲的な表現に留まっている」ケースや、「本人からの意思確認を待っている状態だが、具体的な給料や労働時間の重要な労働条件が決まっていない」ケースなどであれば、単なる労働契約締結の予約の意思表示をしたにすぎないと認められる要素が強く、労働契約は成立していないと解釈されます(生協イーコープ・下馬生協事件 東京地判平5.6.11)。このような場合には、解雇の問題は生じないと考えられます。

    従って、採用の予約や採用内々定の段階では、クリニックが確定的な採用の意思表示(就職希望者の申込みに対する承諾の意思表示)をしたと解することはできず、解雇には該当しません。

 

 

内定通知書を出した後の取消しは解雇になる

    しかし、いったん採用内定通知書を出すと、過去の判例を前提とすれば「まだ勤務が開始されていなくても何らかの形の労働契約が成立している」ということになります。従って、その取り消しは、「いまだ労働者が現実に就労していない場合においても労働契約関係の解消=解雇である」と解されます。つまり、採用内定の状態は、①通知の時点で労働契約が成立し、②就労開始日が来たら効力が発生することを約束するもの(就労始期付解約権留保付労働契約)であること、③正当な事由が生じた場合には解約できる権利が留保されていること、が特徴です(大日本印刷事件 最判昭54.7.20)。

    そのため、内定通知後の取り消しについては、解雇と同様、その理由が客観的に合理的であり、社会通念上相当として認められるものでなければなりません。

    取り消しが認められる具体的な理由としては、「学校を卒業できなかった」「入職日までに犯罪行為を行った」「病気であることが判明し、期待される勤務が行えない」「重大な経歴詐称が判明した」など、内定時の評価に変更が生じた場合などに限られるべきでしょう(電電公社近畿電通局事件 最判昭55.5.30)。

    採用内定者は労基法上の「労働者」とはいえませんので、解雇予告・予告手当の適用はないとされる見解が有力です。

    ただ、「実務的には、予告手当が必要ない」とはいえ、採用されるものと思っていた期待やそれを失ったショックなど採用内定者の思いを十分に汲みとり、配慮する必要があります。取り消しに至った事情説明はきちんとすべきです。万一クリニック都合の事情がある場合には、お詫びの言葉と、場合によっては採用内定者の状況に応じて一定の補償を検討するなど、丁寧な対応がトラブルを未然に防ぐことになるでしょう。

 

資料1 採用内定通知書/入職承諾書の様式例

採用内定通知書

〇年〇月〇日  

      〇〇 〇〇様

〇〇クリニック        
院長 〇〇 〇〇    

 

   拝啓 時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます
    さて、先日は当院の採用面接のためにご来院いただきましてありがとうございました。
   選考の結果、貴殿の採用を内定いたしましたので、ご通知申しあげます。
    つきましては、同封いたしました入職承諾書に必要事項をご記入いただき、ご署名

   ご捺印の上、〇年〇月〇日 までに当院へご返送くださいますようお願い申し上げます。
       また、万一、以下に記載する内定取消事由に該当した場合は、内定を取消させて

      いただくことになりますので、ご留意くださいますようお願い申し上げます。

 

     <採用内定取消事由>
    ①採用の前提となる条件が達成されなかったとき(卒業、免許の取得など)
    ②提出済書類に虚偽記載等が発覚するなど、採用を著しく不当とする事情が判明したとき
    ③入職日までに健康状態が変化し、勤務に耐えられないと医院が判断したとき
    ④入職日前に不都合な行為があり、医院に迷惑をかける恐れがあるとき
    ⑤内定通知時には予想できなかった医院の経営環境の悪化、事業運営の見直し等が行われたとき
    ⑥その他、前各号に準ずる程度の不都合な行為のあったとき

敬具  

 

 

入職承諾書

 〇〇クリニック        
  院長 〇〇 〇〇 殿    

 

     この度、私は貴院に採用が内定されましたので、貴院へ就職することを

    承諾致します。したがって、他への就職あるいは貴院への入社取消などの

    行為を一切しないことをここにお約束します。ただし、以下のいずれかに該

    当する場合は、採用を取り消されても異議のないことを承諾致します。

 

 

  1.提出済み書類に虚偽記載等が発覚するなど、採用を著しく不当とす

     る事情が判明したとき

  2.事故、疾病等により就業困難と認められたとき

  3.入職日前に不都合な行為があり、貴院に迷惑をかける恐れがあるとき

  4.その他、前各号に準ずる程度の不都合な行為のあったとき

 

年 月 日 

  

                  内定者   住所

                        氏名                 ㊞

 

 

 

まとめ

1.採用内定通知書を出すと、労働契約が成立していると見なされる。

2.内定通知後の取り消しについては、解雇と同様、その理由が客観的に合理的であり、社会通念上相当として認められるものでなければならない。

3.採用内定者は労基法上の「労働者」とはいえないため、基本的には解雇予告・予告手当の適用はない。

 

 

書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より

 

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