ネームプレートの着用を断るスタッフがいるが、強制はできるのか?

石川 恵
石川 恵 社会保険労務士

院長のためのクリニック労務 Q&A

 

~採用・労働契約編9~

 

Q:ネームプレートの着用を断るスタッフがいるが、強制はできるのか?

A:できます。同時に、ネームプレートを着ける理由をきちんと伝えてください。

 

 

法的利益を侵害するものではない

 平成11年、郵便局の職員がネームプレートの着用を、「氏名権」「プライバシー権」「肖像権の侵害」であると訴えた裁判があります。それに対して、東京地裁は「ネームプレートの着用は業務の運営上必要であり、法的利益を侵害するものではない」という判決を下しました(東京郵便局管内ほか(胸章着用)事件 東京地判平11.12.8)。

 

なぜネームプレートを着けなければいけないか

 ネームプレートを着けるのは、「誰がその業務を行ったのか」「誰がクレームに対応したのか」といったことを明確にするためです。個人を特定することは言動に責任を持ち、その重みを認識することにつながります。

 確かにクリニックによっては、ネームプレートを着用していないところがあります。しかし、人数が多いと、クレームがあったときに誰のどの対応に問題があったかがわからなくなります。「振る舞いが悪い」「発言に問題がある」といった場合に、患者さんがアンケートにそのことを書き込んだとしても、当事者の名前がわからないと効果がありません。このようにサービスの向上のために、ネームプレートを着用することには、きちんとした理由があります。

 

 

プライバシーの侵害には当たらない

 住まいがクリニック近隣の場合、「顔見知りがいつ来るかわからない」とネームプレートを着けることを嫌がるケースがあります。顔見知りであっても名前を互いに知らない患者さんから個人的な興味を持たれ、名前を見られることで何らかの問題が生じることを恐れるためです。しかし、判例の中で「氏名というのはそもそも広く知れわたっているものであり、表示はプライバシーの侵害に当たらない」とされています。

 通常、処置や説明の前に、「看護師の○○です」と名乗ります。ネームプレートはそれが随時表示されているだけのことという考え方です。

 

「着けたくない」といってきたスタッフへの説明の仕方

 まず、「責任意識を1人ひとりに持ってもらうため」や「サービス向上のため」というネームプレート着用の目的を明確に伝え、法的にも合理的であると認められていることを伝えます。

繰り返しても従わない場合は、次の段階である懲戒処分の検討に移ります。ただし、一度伝えて従わない程度では懲戒処分はできません。その前に、クリニックが何を大事にしているかを何度も伝え、繰り返し指導をしていくことが必要です。

 

まとめ

1.ネームプレートの着用は業務の運営上必要であり、法的利益を侵害するものではない。

2.氏名というのは、そもそも広く知れわたっているものであり、表示はプライバシーの侵害には当たらない。

3.反対するスタッフに対しては、サービスの向上のためにもネームプレートが必要であることを、繰り返し伝えることが大切。

 

 

書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より

 

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