診療所開業 ~ 診療科別開業成功のポイント ~

今回からは、主要13科目別の開業成功ノウハウをブログで解説していきます。

 

◆消化器内科 編

苦痛の少ない内視鏡の普及や、健診・人間ドックでの上部消化器官内視鏡検査が一般化したことで、内視鏡検査へのハードルはかなり低くなりました。よって、これからの消化器内科の新規開業では、この内視鏡の取扱いが事業計画や立地選定に大きく影響することになります。消化器内科で成功された先生のなかには、消化器疾患の一般外来と内視鏡センターを別施設で対応し、提供する医療の幅広さと専門性を同時にかなえているケースもあります。

 

≪ポイント≫

・内視鏡を導入しない場合は、専門性より「かかりつけ医」を意識

・上部内視鏡だけでは、専門性という差別化要因にはなりにくい

・上部・下部内視鏡(ポリペク)を実施する場合は、広域に集患可能なターミナル性に富む立地で、

  「内視鏡専門クリニック」を打ち出すことで優位性を発揮

 

①経営戦略・立地選定

 

 消化器内科での経営戦略と立地選定では、内視鏡の導入の有無と診療領域によって異なった戦略を立てることになります。

 

(1)内視鏡を導入しない場合

 消化器疾患における特に腹部領域の診断ではエコーの導入は必須と考えますが、それ自体は他の一般的な内科診療所でも実施しているケースが多く、専門性を打ちだす差別化までは期待できません。

 そこで、内視鏡を導入しない消化器内科の経営戦略としては、一般内科と同じ感覚で、慢性疾患の定期受診患者さんの積み上げが、経営のベースになってきます。

 慢性疾患患者さんの受診行動としては、自宅から近い医療機関がファーストチョイスとなることから、開業候補地での診療圏調査結果で患者予測数値がしっかりと出てこない限り、成功の確率は厳しくなると考えられます。また、診療圏の設定も原則的に狭域な徒歩圏内となります。

 慢性疾患患者さんの診療所選びの基準は、日常のちょっとした不調や不安にも相談できる、かかりつけ医ということです。ですから、医師と患者さんとの信頼関係の構築がそのベースとなります。

 新規開業の場合は、現在通院している医療機関に不満をもつ方や、健康診断などで要治療となった新規の患者さんをいかに取り込めるかということになります。医療過疎地でもない限り、こうした患者さんを獲得するには相当な期間を要することになります。事業を早期に軌道に乗せるためにも、落下傘開業は避け、現勤務先病院で定期通院されている患者さんに、継続してかかっていただけるエリアでの開業の検討が現実的であり賢明な選択といえます。

 また、開業後も地域住民を対象に定期的な「健康教室」などを開催して、「疾病予防や慢性疾患との向き合い方」などの啓蒙活動に努めるなど、「かかりつけ医」機能を発揮して、地域住民に受入れられる継続的な工夫が必要と考えられます。

 

 

 

(2)上部内視鏡のみ導入する場合

 上部内視鏡検査を実施している消化器内科診療所が大幅に増えている現在は、検討中の立地の同一診療圏に競合診療所がない場合を除くと、それだけで専門性の高さを強調する差別化要因にはなりにくいというのが現実です。患者さんの認識としても、消化器内科を標榜する新規開業診療所で、上部内視鏡を導入していないことのほうが不自然に感じられる時代です。

 苦痛が少なく安全性も高いとされる細経内視鏡による経鼻内視鏡の普及が急速に進んだことなどから、実際に内視鏡検査を経験されている人も増え、患者さんの受診へのハードルは明らかに下がりました。地域によっては、健診項目に上部内視鏡を採り入れ、行政サービスとして提供されるケースも増えてきています。新規開業にあたっては、自己負担がなく検査を受けてみたいという層をいかに取り込めるかも重要になっています。公的な健診という受診の動機づけが、内視鏡未経験者を掘り起こすことになるわけです。

 とはいえ、上部内視鏡については、現在ではかかりつけ医の延長に位置づけられますので、診療圏の設定は、前記(1)と同様に比較的狭域とし、患者予測数値をしっかりと把握することが重要になります。

 

 

 

 

(3)上部・下部内視鏡を導入する場合

 私どもの開業支援でも、上部・下部内視鏡を導入する診療所が増えており、ターミナル駅での開業では、消化器内科ではなく、より具体的な診療内容を表す「内視鏡専門クリニック」を前面に打ち出すケースも出てきています。「大腸の検査やポリペクは病院で」という地域もまだ数多くありますから、下部にも対応する専門性を武器に、比較的広域に診療圏を設定することができます。

 上部・下部内視鏡を導入する場合は、リカバリー室の設置や前処置のトイレの設置など、他の内科診療所と比較して初期投資額が大幅に上がり、相応の床面積も確保しなければなりません。

 そのため、確実な内視鏡検査数が確保でき、投資に見合った回収が見込める市場での開業を検討する必要があります。この場合、広く外来消化器診療を行いながら、予め曜日や時間を設定して内視鏡を行う診療スタイルか、内視鏡に専門特化するのかによって、事業構造や立地選定の考え方が変わるので、まずは診療スタイルの方向性を決めることが計画の前提になります。

 先述のとおり、内視鏡専門を打ち出す場合の立地は、ターミナル駅周辺でその優位性が発揮されることになります。病院と同等の高度な検査を求める患者さんを広域から集めるという戦略です。

 一方、地域密着型の外来診療も行いながら、他の内科診療所との差別化で上部・下部内視鏡を実施する場合は、一般内科としての患者予測数値が一定数確保できる診療圏で、かつ下部内視鏡を実施している診療所がないエリアが望まれます。診療圏内に上部内視鏡のみを実施している診療所があっても、上部・下部に対応できる優位性を打ちだすことで集患面だけでなく他の医療機関からの紹介も期待できます。

 

★次回は 消化器内科の事業計画 を掲載予定です

 

~株式会社日本医業総研 発行 診療所開業 ここで差がつく診療科別開業成功のポイント より~

 


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