2011年9月12日

LETS review  Vol.12  April  2011

全国のひとが「つながる」ことが復興を支える力に

ヒューマンケア・システム 代表
元 厚生労働省企画官 北川博一氏

DMATは、都道府県や厚労省の要請で活動を開始し、今回の東北関東大震災でも、3月14日の段階で、活動中・120チーム(活動場所/福島県立医大、仙台医療センター等)、移動中・23チーム、対応可能・119チームと、震災直後にもかかわらず、極めて迅速な対応がなされていることが分かります。
先の阪神淡路大震災では、被災した地域の医師や医療機関の間で十分な連絡が取れなかったことが、特に初期の医療提供において混乱を加速させたという課題がありました。その反省もあり広域災害救急医療情報システム(EMIS)が構築され、モバイルパソコン、携帯電話各社のデータ通信によって被災地内でもインフラに左右されずインターネット環境を確保し、今回の被災地における医療活動を支えています。

 

緊急時の医薬品提供など制度面の対応はどうだったか

大規模災害時に、医療提供上の課題として指摘されるのが、医薬品の確保と提供です。
今回の災害では、薬事法上の流通規制については、相当早い段階で以下のように緩和されています。

①処方箋薬も医師の処方がなくても授与等ができる、②医療機関間の医薬品の融通も薬事法違反にならないこと、③外国からの輸入医薬品の検査等の簡素化など。

医薬品メーカー等も、震災後の週明け段階では、卸への医薬品の提供等は進んでいたとのことですが、①現地の通信網の寸断(停電等)による必要な情報の途絶、②利用可能なヘリポート・空港が近隣に当初なかった、③道路の寸断・ガソリン不足等による搬入方法が限定された―といったことで報道されたような医薬品不足となったようです。したがって、今回の医薬品不足については、制度的な問題よりは、実際的な補給路(ロジスティック)上の課題があったということでしょう。

また、阪神淡路の時よりも、院外処方の普及、SPDの普及等により、病院に医薬品・診療材料の院内在庫が以前より少なくなったことも、今回の医薬品、診療材料の不足に拍車をかけたと考えられます。

患者の立場では、自己負担も窓口で負担しなくても良い措置(後日、保険者が減免、猶予、請求)も採られており、医療機関の立場では、定数超過入院、職員数の不足等の診療報酬請求上の措置も講じられるなど、制度的に可能なととは迅速に対応されていると感じます。

これも阪神・淡路大震災の経験が活かされている=前例のあることは行政としては対応できていると思いますが、やはり広域で道路網等が寸断されるという前例ない課題のため、また並行して生じた原子力災害のため、結果としては、対応が遅れているように報道されてしまったのは残念です。

診療所(開業医)の役割も決して小さくない

今回の東北関東大震災で現地の診療所の活動状況は不明ですが、宮城や岩手の災害拠点病院の症状別の患者数を見る限りは、軽症の方の比率が高いと感じています。

もちろん今は、診療所自体も被災し、停電もあり責任を持った医療ができる状態ではないと恩われますが、災害を受けていない地域では、普段からの医療連携(災害拠点病院と診療所)を活かして、これからの問題として、災害時の医療連携(軽症者のトリアージなど)などを相談しておくことが大切だと感じています。普段からの準備があれば、必ず災害時に役に立つはずです。

また、今回、日本医師会からの医療班の派遣(JMAT)が行われていますが、この中には、診療所の先生も含まれているのではないかと推測されます。自分の患者をやりくりしての被災地への貢献、頭が下がる思いです。ぜひ、健康に気を付けて頑張っていただきたい。

また、これからは心のケアも大事な医療支援になってきます。こと数年増加している精神科・神経内科のクリニックの先生方の協力も必要な段階にあると恩われます。

平時に行なっておきたいこと

まず、自らが災害にあうかもしれないという視点で、①自らの診療所の安全性(設備の倒壊の点検)、②停電等した場合の患者や職員の避難経路・避難場所の確保、③診療所で1泊等することを想定した非常食、水等の確保(特に都市部)などを検討することが大事だと考えます。これは経営者として最低限の義務といえます。

次に、大規模災害にあった際も、地域医療を支えるという視点で、ぜひ、災害時における災害拠点病院等との医療連携(軽症者対応・医薬品融通等)について意見交換し、準備をしておいていただきたい。日頃の準備があれば、いざというときに始動が早くなるはずです。

そしてもし、余力があれば、災害地への医療班への参加等を考えていただきたい。被災地では、医師でなければできないことがたくさんあります。今は、被災した医師、看護師等が頑張っていますが、いずれ彼らも自らの生活再建のための時間が必要になります。これを全国の医療関係者が、現地で、一定期間支えることも、日本の医療提供体制を守るためには必要なことでしょう。災害は、各種の制堤だけでは、乗越えることはできません。全国のそれぞれの人が「つながる」ことで、はじめて乗越えられるのだと思っています。(文責 : 編集部)

 

1分1秒を争う早期対応が救命のカギ! クラッシュ症候群

クラッシュ症候群(挫滅症候群〉とは、身体の一部が瓦礫などに長時間挟まれ、その圧迫から開放されたときに、壊死した筋肉に蓄積した毒性物質が血中に漏出。急性腎不全、循環不全などの多臓器不全を引き起こす致死的な外傷です。さらに劇症例では、圧迫解放直後に心停止するケース(再還流症候群)もあります。見た目には、打撲程度の外傷しか見られず、またバイタルサインも異常が認められないことから、判定を見落としがちな側面もあります。

歴史的には、1940年のロンドン太空襲での発症報告が最初とされ、以後、戦災や自然災害、事故等で起こり得る外傷として研究されました。

日本では阪神淡路太震災で多発。その数は世界にも例を見ないものでした。それを契機に日本でも広く認知され、以後の災害医療のあり方に大きな影響を与えました。下表は阪神淡路大震災の被災地内病院48施設、後方病院47施設で、外因性の傷病で入院した患者の数と、後の死亡者の数です。他の傷病に比べ、クラッシュ症候群の死亡率が極めて高いことが示されています。また、当時は治療法が確立されておらず、前例が極めて少ないことから、被災地で初めて目にする医師が大多数で、予後不良を拡大しました。

クラッシュ症候群の発症を疑う所見としては、①2時間以上挟まれていた、②局所に運動・知覚麻庫、③尿が茶褐色に変色、④挫滅部位が腫脹し広範囲で点状出血、が指摘されており、知ってさえいれば、一般の市民でも判断できそうです。

さて、被災地で救助活動を行なうのは、専門のレスキューだけではありません。現に阪神淡路大震災では、倒壊した建物から救出された被災者の約80%は市民や自主防災組織の手によるものでした。クラッシュ症候群では、心肺蘇生やAEDなどの救命措置救命は意味をなしません。かろうじて有刻なのは、十分な水分補給や、体温の低下を防ぐための保温といった程度であり、一刻も早い高次医療機関への搬送が生死の明暗を分けます。

早期発見・早期治療という災害医療の原則がまさに当てはまるので、医療関係者のみならず、一般の市民にも正しい知識をもっていただくための積極的な公告が必要です。

 

診療所に求められる災害時の備え

東北関東大震災で浮き彫りにされた医療の問題点

東北関東大震災という未曾有の事態に、懸念されていた犠牲者の数は日を追うごとに増し、3月28日現在の死者・不明者が2万7千人を超えるという惨状に、言葉もありません。
一方、震災の被害は、被災地の医療現場にも深刻な影を落としています。今回の震災におけるライフラインと物流インフラの途絶は、阪神淡路大震災を教訓に整備された災害医療の体制や機能を不能にしました。国内には、医薬品を含む医療資源は十分備蓄されているにもかかわらず、被災地の医療の前線に医薬品どころか、清潔な水すらほとんど供給されていないのは既報のとおりです。この状況下で被災者の医療にあたる医師や従事者の疲弊も限界に達していることはいうまでもありません。

災害非常時に備えた診療所の機能

さて、震災時に緊急な医療対応を求められるのは病院だけではありません。軽症な被災者はもとより、一時帰宅した患者や、慢性期患者へのケアも期待されることでしょう。

そこで以下、緊急時に備えて、診療所が日常から予め整備すべき事項を紹介します。

■スタッフの参集
参集基準(震度○等)と緊急連絡網を作成し、本人の被災状祝に配慮しつつ、院長の指令で参集する。
■建物のチェック・整備

①テナントの場合、建物が新耐震構造基準を充たしているのかのチェックが必要(昭和56年5月以前の着工物件)。

②窓ガラスなどに飛散防止フィルムを貼る。

③院内の什器類をできる限り固定し倒壊を防ぐ。特に、薬品類の飛散防止に心がける。
■設備とライフライン

①診療科によっては、停電に備え非常用バックアップ電源の導入を検討する。

②人工透析など、多量の電力を長時間使用する診療所では、バックアップ電源の作動時聞に限界があるため、他の医療機関と提携し患者の受入先を確保する。

③設備関連業者(自院の設計・施工業者、建物のメンテナンス業者、近隣の建築関連業者、医療設備の専門業者、ライフライン業者等)の連絡先リストを整備する。
■患者の受入体制

①通院患者、在宅患者の連絡先名簿を作成。患者の自宅の被災状況やライフラインを直ちに確認できる体制を組む。

②クリニックでは主に軽症患者の処置が求められる。患者が多数来院することを想定したシミュレーションをスタッフ全員で行なう。
■医薬品等の調達

①救急用を含めた医薬品の備蓄に心がける。

②緊急時に備え、取引のある医薬品業者との提携を図る。

③業者だけでなく、近隣の医療機関、調剤薬局と連携し、医薬品調達先リストを作成する。

緊急時には院長は医療に専念しなければなりませんから、できる限りスタッフ間で担当者を決めて、常に震災対策の情報を共有する必要があります。

「生」への希望を支える医療

3月20日、宮城県石巻市で、津波による廃墟と化した地域から16歳の少年と80歳の祖母の二人が救出されました。一日の最低気温が氷点下にまで下がる条件の中、瓦礫下にわずかに残った台所で、冷蔵庫にあったヨーグルトや飲料で飢えをしのぎ、乾いた毛布で暖をとって救助を待っていたようです。絶望的な環境下でも生への希望を決して失わなかった結果です。過去においても、大震災時では甚大な被害のなかいくつかの奇跡が生まれます。そして医療は、被災者が生への希望を持ち続けるためにも存在すると考えます。

震災時の災害拠点病院を中心とした医療体制が重要なのはもちろんですが、地域に密着し患者さんの顔が見えているという意味では、診療所ならではの心の通った被災者へのケアもあるはずです。医療従事者一人ひとりに、改めて考えていただきたいテーマです。


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