院長が知っておきたい人事労務の勘所Ⅰ

①賃金設定をどうするか

 2022年度に各都道府県の最低賃金引き上げが実施され、東京都、神奈川県に次いで大阪府でも最低時給が1,000円代となりました。そうしたなかで、賃金額の設定が、良い人材を集めてくるための重要な要素となります。相場と100円違うだけで、集まってくる人材も違いますし、そもそも先生方のスタッフに対する要求レベルも総じて高いことが多いため、少し出し惜しんで賃金を周りと同等ぐらいにするよりも、今後採用関連で手を煩うぐらいならと割り切り、当初から設定賃金額は相場より少し魅力的に映るぐらいでもいいかもしれません。

 ただ必要以上に高く設定してしまうと、集めたスタッフが先生が思うような能力を発揮してくれなかった場合、すぐに賃金を下げられるか、というわけにはいかないので、結果、スタッフと先生との間で余計なストレスが生じることとなります。

 少なくとも見劣りしない程度に、賃金の打ち出し方の工夫が必要となります。

 

②社会保険加入、どうされますか

 かつて、コスト負担の観点から、開業当初からの導入を見送ることが多かった「社会保険加入事業所」ですが、最近は開業時より任意適用事業所として社会保険加入しているクリニックが増えている印象があります。

 実際に、採用面接の際に「老後資金2,000万円問題」のキーワードを出して、仕事を選ぶうえで社保加入かどうかを気にしてますと、応募者の口から出てくることが多くなりました。やはり求人広告に「社保完備」の4文字があると、求職者からの目からも、安定した事業所であると判断される傾向があります。

 それに関連して、先生の勤務先から良い人材をスカウトする場合に、元の勤務先とクリニックとの待遇面の比較は避けられません。社会保険未加入のクリニックへの採用では、社会保険料の負担分を給与の上乗せで補填しなければならないなど、それなりの配慮が必要となります。また、今後クリニックが医療法人化などにより強制的に社会保険加入となった場合にも、「社会保険加入になるのだから、もともと社会保険未加入分を補填していた金額は給与からカットします」と理屈ではわかりますが、現実の実行は困難です。

 

③おおまかでも、どんな人材が必要かイメージすること

 先生が思い浮かべる理想のスタッフ像はどういったものでしょうか。

 私自身の経験談ですが、以前「医療事務」の採用をお手伝いさせていただいた時に、先生と私の「医療事務」に対するイメージに相違があり、なかなか内定までいかなったケースがありました。

 そもそも、私が思い描いていた「仕事ができる医療事務」は、医療保険制度やレセプト請求がきちんとできて、裏方でクリニック運営を支えてくれる人材であったのに対し、先生が思い描いていた「医療事務」は主に受付等での接遇能力に長けた患者さん対応ができる人材でした。

 先生と私の医療事務に対するイメージはどちらも間違いとはいえないと思います。重要なことは、先生が求めている人材がどういったイメージの方なのか。たとえば、温かみのあるクリニックをイメージしているのであれば、実務能力が高くても不愛想な方には縁がなかったと諦めるぐらいの潔さが必要になります。「とりあえず、能力が高そうだから」と採用してしまうと、後々クリニックのイメージに合わず、トラブルとなり、「こんなはずではなかった……」となってしまう可能性があります。細かな要件を設定する前に、まず理想とする人材イメージを持っておくことをお勧めします。

 

 

④自院のホームページで求人効果をUP

 求人媒体は紙誌面・ウェブ・紹介会社等さまざまですが、最近はウェブの求人媒体の比率が圧倒的に多くなりました。もちろん、高額な出稿料で広告しますので、効果としては一定程度期待できるのですが、少ない費用で求人効果を高める方法に「自院のホームページの活用」があります。残念ながら、これをされないクリニックが少なくありません。ウェブの求人媒体で自院のホームページのURLを貼っておくことで、そのままクリニックのホームページを閲覧いただけますし、求人媒体で広告ガイドラインなどの制約を受ける情報も掲載することができます。例えば、ささやかな福利厚生(例:コーヒー飲み放題・引っ越し費用補助・忘年会はちょっと贅沢に食事会など)もクリニックの魅力ですし、載せたことでマイナスイメージを持たれることはまずないので、興味を持ってもらえる内容に先生なりにアレンジしていただくのも効果的です。

 自院ホームページを運用されない方はほとんどおりませんので、そのホームページのコンテンツの一つに採用情報を割いてみてはいかがでしょうか。

 

⑤「とりあえず履歴書を送って」はNG

 最近の採用活動では、ウェブ上で簡単にエントリーしやすいことの影響からか、「なるべく手間をかけたくない」「選考に日数をかけたくない」といった「効率的な求職活動」がトレンドになっています。

 エントリーしてきた応募者に対して、「では、とりあえず履歴書を送ってください」とお願いしても応募者の対応が遅く、面接選考まで進まないといったこともあります。そのため、ウェブ上で応募いただけた方に対しては、一度電話で、志望動機などをいくつか質問し(同時に、電話での受け答えなどを印象をチェック!)、それを経て、「面接しますので、履歴書を送っていただけませんか」とすると、面接日程調整もできますし、履歴書も滞りなく送っていただける可能性が高くなります。また、履歴書は必ず面接前に目を通すようにしてください。履歴書を見ながら質問を考えると、どうしても聞き漏らしなどが起こりやすくなります。

 

⑥面接のドタキャンは「前日連絡」で予防

 「さて、次は面接」というタイミングで、よく見られるのが、面接当日でのキャンセル(ドタキャン)です。前項目でも書きましたが、応募者にとっては、ウェブ上でのエントリーも気軽にできるため、同じく「キャンセル」も気軽にできると感じる傾向にあり、結果ドタキャンにつながるケースが多いように感じます。

 理由も「別のクリニックで採用が決まりました…」「家庭の事情で…」「面接自体を忘れてました…」など様々あるため、効果的な対策がとりにくいですが、まずは面接前日に応募者にメールを送るなど、事前に連絡(「明日はよろしくお願いします」程度で十分)をされることをお勧めします。事前に連絡を取ることで、応募者へのリマインドの役割を果たすと同時に、応募者自身の現状を聞き出すきっかけになることもあります。

 せっかく空けた面接の時間が無駄にならないように、事前にメール1本、入れておきましょう。

 

 

~株式会社日本医業総研 発行物 2ndStage Vol.10 CONSULTING EYE コンサルティングの視点 より~

 

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