能力の低いスタッフを試用期間中に解雇できるか?

石川 恵
石川 恵 社会保険労務士

院長のためのクリニック労務 Q&A

 

~退職・解雇編3~

 

Q:能力の低いスタッフを試用期間中に解雇できるか?

A:できますが、客観的・合理的理由が必要です。

 

試用期間中の解雇、本採用拒否について

 試用期間中であったとしても、簡単に解雇することはできません。一般的には試用期間の解雇基準が、本採用後のスタッフに対する解雇基準よりはやや緩やかであるとはいえ、能力不足による解雇が裁判上有効とされるケースはまれで、繰り返し指導をしても改善が見込めないなどのやむを得ない理由が必要です。

 解雇に対する規制として最も重要なのは、「客観的に合理的な理由の有無と、社会通念上相当であると認められるかどうかにより、解雇の有効性を判断する」というものです(労契法第16条)。試用期間中も解雇に関しては上記の考え方が適用されます。

 

試用期間とは

 試用期間は、いわゆる見習いの期間――使用者と労働者がお互いのミスマッチを防ぐために設ける見極めの期間――として置く場合が多く見られます。事業主が任意に設定するものであり、法律上の定義は特にありません。

    過去の判例によると、試用期間は「採用時には“知ることができず、また知ることが期待できないような事実“が後になって発覚することもあることから、最終決定を一時差し止めて使用者側の解約権が保持されている状態――いわゆる”解雇権が留保されている期間“」と解釈されています。この期間の解雇は、本採用労働者の解雇よりも緩やかな規制となっていますが、いずれにしても合理的、社会通念上相当な理由が求められます(三菱樹脂事件 最判昭48.12.12)。

 一般的なクリニックでは、就業規則や個別労働契約書などに定める試用期間はおおむね3か月程度です。なお、1年を超える試用期間は合理的範囲を超え、公序良俗に反し無効とされた判決があります(ブラザー工業事件 名古屋地判昭59.3.23)。

 

「業務への能力や適性に欠けている」「欠勤があまりに多い」などの理由の場合

 クリニックはスタッフの試用期間満了までに、業務への適性があるか、勤務態度や出勤状況は良好か、などを見極めるのと同時に、それらの欠如についてはその都度、改善のための具体的な指導・教育を尽くす義務があります。

 一度も注意指導を与えることなくなされた解雇は無効とされた例があります。「高橋ビルディング事件」で裁判所の示した見解は、「試用期間中の者に若干責められるべき事実があったとしても、これに対して直ちに解雇をもって臨むことなく会社には教育的見地から合理的範囲内でその矯正、教育に尽くすべき義務がある」というものです(高橋ビルディング事件 大阪地判昭45.10.9)。

 

一定の能力を持つ経験者を募集し、本人もその能力を保証していた場合

 求人票の記載や採用時の面接で、クリニックが求める能力や技能などについて応募者自らが「できます」「お役に立てます」と保証していたにもかかわらず、実際にはクリニックが求める水準に達していないような場合には、本採用拒否や試用期間中の解雇が認められやすいといえます。

 経験を前提として採用する場合には、特定の業務を遂行するための具体的能力を持っていることを前提とした労働契約書を締結しておくとよいでしょう。例えば、業務内容項目に「レセプト業務の単独遂行」「○○検査の実施」などと具体的に記載しておき、その業務を前提とした契約であることが分かるようにしておきましょう。

 

 

解雇は難しい

 そもそも能力が低いからという理由だけでは解雇はできません。少し能力が低い程度は改善可能とみなされます。解雇が裁判上有効と認められるには、「何度も是正のため注意し、反省を促したにもかかわらず改善されない」など今後も改善が見込まれない場合や、そのスタッフの存在が周りにも悪影響を与えるというレベルが要求されます。

 「アナウンサーが2週間に2回寝坊して遅刻し、定時放送が2度流れなかった」という事例がありました。会社がアナウンサーを解雇しようとしたところ、解雇無効を訴えられ、結果として裁判所は解雇無効としました(高知放送事件 最判昭52.1.31)。無効とした理由は、「教育・指導していけば改善する可能性がある」というものです。つまり、それだけ解雇は難しいということであり、いったん採用したら粘り強く指導していくことが必要です。

 

 

まとめ

1.試用期間中における解雇は、本採用後よりはやや広い解釈がされるとはいえ、簡単に解雇することはできない。

2.解雇にあたっては、客観的に合理性のある理由の有無と、社会通念上相当であると認められるかどうかが問われる。

3.「少し能力が低い」という程度は改善可能と見なされるため、解雇するには、今後の改善の見込みがない・悪影響を与えるというレベルの理由が要求される。 

 

書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より

 

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