退職時に、「まとめて有休を消化したい」といわれたときに拒否することはできるのか?

石川 恵
石川 恵 社会保険労務士

院長のためのクリニック労務 Q&A

 

~年次有給休暇編7~

 

Q:退職時に、「まとめて有休を消化したい」といわれたときに拒否することはできるのか?

A:原則的には与えなければなりません。

 

退職時には使用者の時季変更権が使用できない

 年次有給休暇編3で説明したとおり、労働者が請求してきた有休に対して使用者には「時季変更権」があります。しかし、当然ながらスタッフの退職後に有休の時季をずらすことはできません。そのため、退職前に請求してこられた有休に対しては時季変更権が使えないこととなり、原則与えなければならないということになります。

 

有休を「買い上げてほしい」と言われたら

 では、休まない代わりに使い切れなかった有休を「買い上げてほしい」といわれたらどうでしょうか。

 有休の買い上げの予約は禁止されています。有休は元々、「心身の疲労を回復するため」のものであり、買い上げにより必要な日数の有休が与えられないというのは法律違反となるのです(昭30.11.30 基収4718号)。

 ただし、例えば1か月後に退職するスタッフが、残り1か月間すべて有休を使いたいといってきた場合、クリニックは急な人材不足に陥り、また新しい人に教育ができないという問題が生じてしまいます。そのため、あくまでも話し合いにより双方の権利と義務を調整していくこととなります。

 

 

就業規則に引き継ぎ義務を明文化する

 上記のような事態を避けるために、スタッフと話し合いをするに当たり、就業規則に、「引き継ぎの義務」を明文化しておくことがポイントです。つまり、退職日の1か月前に退職の申し出があった場合、1か月間で自分の仕事をきちんと他のスタッフに引き継いでから、有休を取り退職してくださいということです。それを就業規則に記載することで、話し合いのときに、「有休はもちろん権利としてありますが、就業規則にある引き継ぎも義務として果たしてください」と交渉ができます。

 仮に、新しい人に引き継ぐのに時間がかかり、1か月間に希望している日数の有休を消化できなかった場合、結果的に取得できなかった有休分の給料を支払うことまでは法律で規制されていません。

 

使えなかった有休を結果的に買い取るのは違法にならない

 先述のとおり、有休を買い上げることを約束するのは禁止されていますが、退職時には、有休は使わなければ単になくなってしまうだけです。そのため、「そこまで頑張ってくれたのであれば、使わずに消えてしまった有休分を退職金や手当で支給してあげる」ということは可能です。もちろん、その支給金額については有休を取得した場合と同じく、「通常の給料」などで支給しても構いませんし、通常の給料の8割・5割などに設定することも可能です。ただし、退職時の有休の買い上げが慣行となってしまい、スタッフが買い取ってもらうことを期待して有休を使わなくなってしまうことにならないよう注意が必要です。いくら金銭を支給しても、有休の取得が抑制されている風土があれば、労基法第39条に違反していると指摘を受ける可能性があります。

 あくまでも、結果的に残った有休に対しての対応であり、スタッフが有休を取る権利を阻害するものにはならないようにしておくことがポイントです。

 

まとめ

1.退職前に請求してこられた有休に対しては時季変更権が使えず、原則は与えなければならない。

2.有休の買い上げにより必要な日数の有休が与えられないというのは法律違反となるが、結果的に使わなかった有休分を給料や退職金で支払うことは可能である。

3.ただし、スタッフが事前に有休を取る権利を阻害するものにはならないようにしておくことが必要である。

 

書籍「院長のためのクリニック労務Q&A」(小社刊)より

 

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