医療事務の基礎知識(6)

今回は、骨折に対して徒手整復を行ったときに算定できる手術料と、整復後の固定  ギプス料(処置料)についてお話させていただきます。先生方にもスタッフさんにも分かりやすく書きたいと思います。

 

■まずは学習

先生方には必要のない説明になりますが、スタッフさんがご覧くださっても分かるように、まずはからだの部位の説明からさせていただきます。

からだの部位で、肘から手首までを前腕(ぜんわん)と呼びます。ここには骨が2本あり、親指側の太い骨が橈骨(とうこつ)、小指側の細い骨が尺骨(しゃっこつ)です。両方とも前腕にある骨なので、総称して前腕骨(ぜんわんこつ)と呼びます。

これらを骨折した場合、「橈骨(または尺骨)遠位端骨折」または「橈骨(または尺骨)近位端骨折」という病名をつけられることが多いと思います。この遠位端とは心臓から遠い、近位端は心臓に近いという意味になりますので、遠位端骨折のときには手関節のレントゲンを撮ります。近位端骨折のときは肘関節のレントゲンになりますので、気をつけて見てみると『なるほど!納得!』だと思います。

 

■徒手整復の算定は

ここからが本題です。このような骨折時に整復をすることが多いと思いますが、整復には2通りの方法があり、1つは入院をして行う観血的手術で、もう1つは外来で行う非観血的徒手整復術です。

 

徒手整復の場合、点数表からは「非観血的手術=切らない(開けない)で元に戻した」という点数を選びます。「K044 骨折非観血的整復術」です。

 

 

■ここがポイント!

点数表で「骨折非観血的整復術」を見てみると、整復をした骨によって点数が3つに分かれています。一見、橈骨や尺骨とは書かれていないので、3番目の「手、足その他」1440点)を選ばれることが多いのですが、これだと医療機関が損をしていることになります。

ここで最初の学習に戻りますが、「橈骨も尺骨も前腕骨」でした。ですから、橈骨や尺骨の整復の場合は2番目の「前腕、下腿」(1780点)を選びます。

これは下腿にも当てはまります。下腿(膝から足首まで)にも骨が2本あります。正面の太い骨が脛骨(けいこつ)で、外側にある細い骨が腓骨(ひこつ)です。これらの骨を徒手整復した場合の点数も、「K044 骨折非観血的整復術」2番目の「前腕、下腿」を選びます。

 

骨折非観血的整復術の「2」と「3」では、この差340点(3,400円)。知らないで間違い続けると収入にも大きな影響が出てしまいますので、しっかり覚えて正しい算定をしてください。

 

■関連があるので一緒に覚えて!

整復後は骨折部位に近い関節を必ず固定します。この固定にも方法がいくつかあります。

既製品のアルミや軟化成形使用型のプラスチックなどでできている副木(シーネ)で固定した場合は、使用した副木代も特定保険医療材料として算定できます。(これはギプスシーネではありません)

また、この副木をギプスと同じ硬い素材のもので作製して使用した場合にはギプスシーネとして算定します。点数はギプスを巻いたときと同じ点数が算定できますので間違えないでください。

 

 

■要注意です

ギプス包帯(注1)とギプスシーネ(注2)は、装着したときの点数は同じですが、その後に気をつけることがあります。

ギプス包帯後に既装着のギプス包帯をギプスシャーレ(注3)として切割して使用した場合には、ギプスシャーレという名称で所定点数の100分の20に相当する点数が算定できます。しかし、ギプスシーネ後にギプスシャーレにするということはありませんので覚えておいてくださいね。

また、骨折の傷病名しかない場合に湿布薬を使用していたり、処方している場合はギプスシーネになります。石膏やプラスチックに湿布薬を貼っても意味がないですよね。

ですから、ギプス包帯固定とギプスシーネ固定は、きちんと使い分けをしなくてはいけません。点数は同じでも名称に誤りがあれば、これは減点になってしまいます。

先生方も「ギプス固定」という表現や指示の出し方では、スタッフさんが間違えてしまう可能性もありますので十分にご注意ください。

 

ギプスシーネ後にギプス包帯に変更するということもありますし、ギプス包帯後に再度巻き直してギプス包帯ということもあります。
このようなときは、その都度ギプス包帯の点数が算定できますのでしっかり算定していただきたいと思います。

 

〈参考〉ギプス料について

ギプス料の点数算定時に気をつけること。

「J122 四肢ギプス包帯の1~6」の中でよく出てくるのが「3 半肢」と「5 上肢、下肢」です。

この違いは、上肢(肩~手首)の場合は、肘よりも上から巻いたら「5 上肢」で、肘よりも下から巻いたら「3 半肢」で算定します。

下肢(大腿~足首)の場合も同様で、膝よりも上から巻いたら「5 下肢」で、膝よりも下から巻いたら「3 半肢」で算定します。

 

(注1)ギプス包帯は、石膏またはプラスチック素材の硬いもので、患者様のからだにあわせてぐるぐる包帯のように骨折部位に巻きつけながらしっかり固定します。最近では、ギプス料で算定が認められている「ハイブリッドシーネ」もギプス包帯で算定できます。

 

(注2)ギプスシーネは、副木(シーネ = 棒のこと)をギプスと同じ硬い素材のもので作製して固定します。骨折部位が腫れていたり、傷を伴っていたりしてギプスをぐるぐる巻けないときなどにこの方法が行われます。

 

(注3)ギプスシャーレは、ぐるぐる巻いた硬い包帯を、上のふたと下のお皿になるような感じで上下に切割し、下のお皿だけをしばらく固定に使う場合をいいます。そのときの切割料がギプスシャーレ代として算定できます。

 

このように、シーネは最初からふたがないお皿(棒)だけで固定をしているので、シーネの後にシャーレにする(切割をする)ことはないのです。

一般的には、ギプス包帯 → ギプスシャーレ → ギプス除去ですが、場合によってはギプス包帯で一定期間固定したあとに、ギプスシャーレにはしないでギプスを除去する場合もありますし、傷を伴う場合などは傷が治るまでギプスシーネで固定をして、傷が治ったらギプス包帯に変更する場合もあります。流れを知っていただき、カルテをよく見て、分からないときには医師に確認していただきたいと思います。

 

■ギプス除去料

ギプスの除去料はギプスを装着した医療機関では算定できません。他の医療機関で装着したギプスを除去した場合に限り、装着していたギプス包帯の所定点数の100分の10に相当する点数が算定できます。

ただし、他の医療機関で装着したギプスを除去したあとに、再度 自院にて新たにギプスを装着する場合には、ギプス除去料は算定できませんのでご留意ください。

 

■もう一つ注意点

上腕骨近位端骨折(上腕骨頚部骨折)のときに徒手整復をされましたら、「K044 骨折非観血的整復術 1上腕(1600点)」は算定できますが、固定に使用したリブバンドや三角巾代は算定できません。

 

今回は整形外科の少し専門的な内容でしたので、先生方にはもちろんですが、スタッフさんが読んでくださっても分かるように、そしてお役に立てていただけるような内容を書いてみました。

レセプトに携わるときには、点数のことだけではなく、体の部位の名称や簡単な医学的知識も必要になりますので、日々の学習の積み重ねが大切です。先生方もスタッフさんにコミュニケーションの一環として、少しずつでも医療のことや治療方法などを説明したり、教えてあげてはいかがでしょうか。

 


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