医療事務の基礎知識(5)

前回、レセプトの審査について少しふれましたので、今回は、レセプトを提出する前に気をつけていただきたい点検ポイントの傷病名についてお話させていただきます。

 

近年、医療を取りまく環境が厳しさを増し、レセプトの審査も厳しくなっているという話は皆さんもよく耳にされると思います。「今までは認められていたことが突然減点されてきた!」なんてことはありませんか?または、「傷病名もきちんと付いているのに減点されてしまう」など、審査基準の素朴な疑問にお役に立てればと思います。

 

■はじめに

レセプトには必要な傷病名をきちんと記載しなくてはなりませんが、その数は多すぎても少なすぎてもよくない場合があります。審査の基準は社保と国保でも違ったり、地域によっても異なりますが、レセプト請求を行う上で、まず知っておいていただきたいことが3つあります。

・ 医学的に正しいことと、保険診療として認められることには違いがあります

・ 病院と診療所では、審査の基準が違います

・ 新規開業の医療機関は、審査が厳しいといわれています

 

■違いを理解して

先生方が医学的に正しい診療をされていることはもちろんのことと思いますが、医学的に正しくても、保険診療としては認められないことがあります。レセプトの審査では、医学的に正しいことに加えて、保険で認めるかどうかも考えながら審査をしています。「被保険者の方々からお預かりしている大切な保険料から支払える内容か」、というところがポイントになりますので、医学的には正しくても、必ずしも認めてもらえるというわけではありません。先生方はこの違いを理解されないと、正しいことをしているのに収入に繋がらないと悩まれることも多いのではないかと思います。

 

■病院と診療所

医療法により規模や機能の違いによって医療機関を分類すると、診療所と病院に分けられます。更には一般病院、地域医療支援病院、特定機能病院と分けられ、それぞれに役割分担があります。診療所は主にプライマリ・ケア(初期段階の医療)を担当し、ホームドクター的な役割を担います。病院は入院診療を主として、一部では救急医療を含む高度で困難な医療の提供や研修を行わせる能力を有することも必要とされています。この役割の違いからも分かるように、審査基準も病院と診療所ではポイントが異なります。病院の場合は点数が大きいところから見ていきますので、細かい点数については見逃されることもありますし、病院だから認められていることもあります。しかし、診療所の場合は外来診療が主になりますので、一つ一つの細かい内容もチェックされてしまいます。病院では認められていることでも、診療所では認められない傾向にあるものがいくつかあります。

 

 

■新規は審査が厳しい

新規ご開業の医療機関は、既存の医療機関よりも審査の目が厳しいといわれています。先生方も事前にいろいろと情報収集をされたり、勉強なさったりしていらっしゃることと思いますが、それでも実際にはレセプトに苦戦されていることが多く、「なんで減点されたのだろう」というご相談をいただくことも多いです。よく聞くのは、「開業前の医療機関では、これで認められていた」とか、「友達の先生に聞いたら、これで大丈夫と教えてくれた」などと、他院では認められていることが、当院では減点になってしまうという内容ですが、これは新規の医療機関だから減点されてしまうということがあり、既存の医療機関よりも審査が厳しいのが現状です。その目安は、だいたい開業後3年間ぐらいでしょうか。ですから、以前勤められていた医療機関や、この情報を教えてくれたお友達の先生の医療機関は、開業後3年以上経っていらっしゃるのではないかと推測します。

 

■減点されやすい注意点

以前から、末梢血液像やCRPといった炎症反応を確認する検査は減点されやすい傾向にあります。これらはスクリーニング検査からは外されて、必要なときに追加していただいた方がよろしいと思います。

 

また、気管支喘息でCRPや胸部のレントゲン(単純撮影)を行われることもあると思いますが、この場合は両方とも適応外になりますので減点される可能性があります。初診時に限り認めてくださる地域や保険者さんもあるかもしれませんが、正確にいえば、これらの検査で喘息の確認ができるわけではありませんね。気管支や肺、心臓の炎症や疾患を確認するために行われていると思われますので、気管支喘息とは別に「肺炎の疑い」など、先生が実際に疑われた傷病名もつけていただく必要があります。

このように、医学的にはあまりにも当たり前すぎて傷病名を付け忘れてしまったり、省略されてしまうことによって減点されていることもあります。

 

■絶対にダメ!

医療機関によっては炎症反応の検査の際、一律に「膀胱炎の疑い」や「急性上気道炎」などとつけられているレセプトを見かけることもありますが、これはやめられた方がいいと思います。検査をした全員にパターン化してつけていることもよくないですし、膀胱炎を疑ったのであれば、まずは尿検査をされるのではないかと思うところ、尿検査の算定がない場合もありますので、膀胱炎を疑ったわけではないということが明らかとなり、違和感のあるレセプトになってしまいます。また、癌やリウマチ、心筋梗塞やその他の炎症病名など、CRPの適応疾患名がきちんとついている場合でもパターン化した傷病名をつけられていることがあり、あまりにも事務的で違和感のあるレセプトに疑問を感じることもしばしばです。スタッフさんは医学的なことが分かっていらっしゃらない場合もありますので要注意です。

 

当たり前のことですが、患者は皆さん違いますので、一人一人に必要な検査を行って、その疑った理由を傷病名にしてください。

 

■知らないと危険

高血圧症では、心電図も胸部の単純撮影も認められます。しかし、「狭心症の疑い」では心電図は認められますが、胸部の単純撮影は認められませんのでご留意ください。これは先生方でしたらお分かりのことでしょうけれど、事務スタッフさんの間では、「高血圧症はいいのだから、狭心症でも何となく大丈夫そうな気がする」と思われている方も多くいらっしゃると思います。これは大きな間違いです。

 

■傷病名があるのに返戻

脳性Na利尿ペプチド(BNP)の検査をされて、「心不全の疑い」と傷病名をつけているのに返戻されることがあります。これは、突然この検査だけをされていることに違和感があるからです。BNPの検査前には、心電図か胸部のレントゲン撮影が行われ、その結果から心不全を疑いBNP検査を実施したのであれば妥当な請求であり、違和感はないので認められると思います。この場合は、なぜ心不全を疑ったのか、ということが請求されたレセプトからでは分からなかったために返戻されたのだと思います。

でも実際には、突然BNPの検査だけを行って請求されていることは多いと思います。傷病名があればいいというわけではありませんのでご留意ください。

 

■傷病名があるのに減点

HbA1cを行ったら、「糖尿病」または「糖尿病の疑い」の病名が必要です。しかし、「糖尿病の疑い」と付けているのに減点されることもあります。この場合、疑い病名ではダメなのだろうか、と思われる先生もいらっしゃいます。減点理由を問い合わせて確認したという先生もいらっしゃいました。この、「問い合わせて確認する」ということはとてもいいことだと思いますが、ここにも落とし穴がありますので注意が必要です。確認したところ、「先月も行われていますよね」と言われたそうです。そこでこの先生は、「なるほど!連月では認めてもらえないのか」と解釈されたようですが、これが大きな勘違い。審査側としては、「なぜ、毎月調べる必要があるのか」という疑問から、毎月調べる必要性が感じられないので減点したのではないでしょうか。ですからこの場合は、毎月HbA1cを測定する必要性が伝われば減点はされないと思います。例えば、糖尿病の疑いとは別に、「境界型糖尿病」や「耐糖能異常」などを傷病名として記載していただき、糖尿病予備軍であるから糖尿病になっていないかを定期的に調べる必要性があったということが伝われば、連月の請求であっても減点はされないと思います。

 

このように、傷病名が付いていても返戻されたり、減点されたりすることがあります。ほんの少しでも審査側のことが分かると、「なるほどね」と納得していただけるのではないでしょうか。

 

 

■ここにも注意

よく使われている「保険病名」という言葉は禁句であることをご承知おきください。

保険病名とは、実際には違う(または、そうではない)けれど、保険を認めてもらうために敢えて付ける傷病名のことをいいますが、これによって傷病名と診療内容に整合性がなくなり、おかしなレセプトになってしまうと、却って審査側にマイナスの印象を持たれてしまい、審査の目が厳しくなることもあります。また、新規開業された医療機関の場合は、開業後に新規個別指導がありますので、保険病名をつけられていると、あとで大変なことになる可能性も高いですのでお勧めはできません。ご留意ください。

 

■レセプトの世界を知ってください

医療機関の収入を大きく左右する大切なレセプト。これには、「医者としては習わなかった」先生方は知らないであろう保険請求の世界があります。保険診療を行って保険請求をするわけですから、保険で認められるようなレセプトを作成することが大切であり、ポイントを正しく理解することも大切です。いままでは、「何となく分かっているつもり、出来ているつもり」になっていませんでしたか?レセプトのことをきちんと知っていただき、その「つもり」を確実なものにしていただければ意味不明の返戻や減点がなくなり、それだけでも少しは先生方のストレス軽減に繋がることと思います。

 


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