あえて診療領域やターゲットを絞り込んだ開業コンセプト。高い専門性を発揮しながら、患者さんに「また、ここに来ようかな」と感じていただけるクリニックを実現

税所芳史 先生 インタビュー

さいしょ糖尿病クリニック
院長

御祖父様が開業医、御父様は大学病院勤務医という家系にいらした税所先生にとっての医師像というのは、どういうイメージでしょうか。

祖父は私が幼いころに亡くなったので、昔話を聞く程度で直接接した記憶は少ないのですが、家にあったさまざまな医療用具や患者さんからの感謝状などを覚えています。大学病院での勤務中の父の姿を見る機会も限られていましたが、それでも私の不調時には、夜間の時間外に診てくれました。そうしたなかで私が医療に進んだのは、自然の流れなのかなと思っています。お金だけを動かす仕事にはあまり興味が持てませんでしたし、生産性を上げるために自然環境を犠牲にすることにも矛盾を感じていました。もともと自然が好きなこともあり、医師という仕事は「人間」という自然を相手にとことん追求していくことができるのではないかと思いました。自然科学を追求し、その結果、患者さんに喜んでいただけることがいいところかなと思っています。

大学卒業後、4年間内科全般を研修された後に、専門領域として糖尿病内科を選ばれた理由をお聞かせください。

症状や問題が起こったときに診察・治療を行うのではなく、予防を目的とした糖尿病診療では、患者さんにとって糖尿病は一生の付き合いになります。つまり、医師にとっても患者さんとは長く、濃密な関係性が続くことになります。とくに糖尿病治療では患者さん自身のセルフマネジメントが重要であり、そこでは医師だけが頑張っても問題は解決しません。心理的アセスメントも含め患者さんご自身の気持ちを引き出し、一緒に病気に向き合っていくことに、糖尿病内科ならではのやりがいがあります。

糖尿病の治療でも、患者さんの全人的な評価が重要になると思われますが、先生が特に気を付けていらっしゃるのはどういったところでしょうか。

糖尿病患者さんの多くに、合併症や併発症がみられます。実際、病院ではどの病棟にいっても糖尿病の患者さんがいるわけですから、そうした患者さんを診療していると、結果的にあらゆる疾患を診ることになります。併発症が原因で糖尿病を悪化させ、患者さんのQOL低下にも影響を及ぼすことがあります。そういう意味では、他の疾患でどういう治療を受けているのかを把握したうえで、糖尿病にどうアプローチするかを決めることが大事で、逆に糖尿病の治療中、別の疾患が認められたときに、それを見逃さずに速やかに他科の専門医に割り振る連携も私たちの仕事です。全人的な評価が患者さんにとっての適切な医療提供となるわけです。

2006年に米国UCLAに留学されたのも、糖尿病の研究を深めるということですね。

大学で糖尿病の研究を始めたときに、2型糖尿病患者において肥満の有無にかかわらず膵β細胞が50~60%減少するというUCLAのPeter C. Butler教授の論文に衝撃を受けました。そこに糖尿病治療の方向性が大きく変わる可能性を感じ取り、一度、本格的に学んでみたいと思いました。その後、周囲からのサポートをいただきアプライしたところ、運よく受け入れていただけました。UCLAでの3年間の学びの恩恵は、大学病院だけでなく、開業医となった現在でも受けていると感じます。

そうしたご経歴を含め、大学での臨床と研究の最前線にいらした先生が、自院の開業へと舵を切り替えられた理由は何でしょうか。

いろいろな要素があって、一言で言い表すのは難しいのですが、開業医志向は元来持ち合わせていたものです。糖尿病という性格上、予防医療や早期の医療介入が大事になってきます。そうなると、大学病院などでは規模が大きい反面、どうしても小回りが利きづらく、アプローチのタイミングを逸してしまうことがあります。より多くの患者さんに、より早く適切な医療を提供したい。それも身近な存在できめ細かく生活習慣に寄り添いたいと考えたときに開業という結論に至りました。

総合内科専門医として広域な内科医療に対応できる先生が、あえて患者さんを限定するような「糖尿病クリニック」という名称にされた理由は何でしょうか。

スペースの制約もありますが、内科をすべて診ようとすると、どうしても糖尿病への取り組みに集中できなくなる可能性があります。私がもっとも得意とする糖尿病の分野で自信をもって強みを発揮することが患者さんにとっても良いことですし、患者さんも私が糖尿病専門医であることを理解されたうえで受診していただくことで誤解も少なくなります。専門外のことは相談いただければ、その分野に長けたエキスパートの医師を紹介することができますし、それがあるべき役割分担だと思っています。

2018年に国分寺で開業された小森先生(小森こどもクリニック、小森広嗣院長)とは、慶應医学部の同級生ということですね。

小森先生とは苗字の並びが近いので、大学ではグループも一緒で仲良しでした。日本医業総研も小森先生からご紹介いただいたのですが、開業コンサル中は親身になって相談に乗ってくれ、厳しい指摘を言われることもあったが、逆にそれが良かったということでした。小森先生からはさまざまなアドバイスをいただきましたが、医業総研を紹介してもらったことが何よりのアドバイスでしたね。

今回の開業の立地選定では、自宅や前職場との距離を意識されたのでしょうか。

生家は新宿で、これまで勤務していた慶應病院は信濃町です。留学から帰国後は高円寺に住んでいた時期もあり、現在は武蔵野市に住んでいますので、新宿を中心にした中央線沿線は昔からよく知る身近なエリアでした。糖尿病を専門としたクリニックを考えたので広域からの集患が可能な、新宿、中野を中心としたターミナルを基本としました。

複数の候補物件を比較するなかから、最終的に中野の当該物件にされた決め手は何でしょうか。

条件を100%満たす理想的な物件など、なかなかありません。新宿からリサーチを始めましたが、ロケーション、広さ、築年数、賃料などのバランスの取れた物件は非常に少ないのが実感でした。もう少しエリアを広げて検討しようとしたところ、担当コンサルタントの加藤義光さんから中野に糖尿病内科の専門医が少ないとの調査結果が寄せられました。当時、当該ビルは建て替え前の状態で竣工は2年後。駅からのアクセスは良く、理想的な場所でした。ビルオーナー様との面談からは、地域に貢献したいという気持ちが伝わり、この場所での開業を決心しました。ただ床面積は約28坪で、やや狭いかなという懸念はありましたが、糖尿病診療に絞り込むのであればなんとかなると判断しました。レントゲン室を作るかどうかは最後まで悩みましたが、最終的には「糖尿病の専門クリニック」というコンセプトから、カウンセリングルームなどのスペースを優先しました。逆にこのことで、自分自身のなかでもクリニックのコンセプトがより明確になり、結果的には良かったと思っています。

糖尿病は不可逆的な疾患として決めつけ、患者さんが途中で治療を諦め、離脱してしまうケースがあると聞きます。治療を継続していただくために、どのように取り組んでいらっしゃいますか。

そこはとても大事なことだと思っています。アクセスの良さや待ち時間が負担にならない診療予約システム、自動精算機の導入も患者さんの通院しやすさへの配慮です。治療の中断によって糖尿病を放置してしまうと、糖尿病特有の三大合併症のほか、動脈硬化性の疾患などを併発するリスクが高まります。いまは薬物療法も高い効果が期待できるだけに、私の専門分野である膵β細胞の観点からも何のために治療するのか、値をうまくコントロールしながら疾患と付き合っていくことの大切さをキチンと説明し、患者さんの納得を得ることが通院を続けていただくうえで重要であり、それが医師の役割だと思っています。「また、ここに来ようかな」、そう思っていただけるクリニックでありたいと思っています。

クリニックの運営と適切な医療提供のためには、スタッフのスキルや多職種のチームワークが不可欠だと思います。そうしたチーム医療を醸成させるために実施していることはありますか。

スタッフは、経験や能力より、仕事に対する意欲の高い、患者さんにより良い医療を提供したいという方々を人選しました。開業後は、日々の診療のなかでのお互いのコミュニケーションや、小さな疑問もその場で解決していくような雰囲気作りを意識しています。各々のモチベーションを高めるためには勉強も必要なので、学会発表や専門資格の取得を奨励しているほか、週2回程度、取引先のMRさんによる薬物に関する説明会や勉強会を開いています。

ホームページを見ると、スタッフ全員参加のブログがクリニックの特徴を言い表しているように感じられます。これも先生のお考えですか。

そう感じていただけると嬉しいですね。患者さんがクリニックを選ぶ主な情報源はウェブサイトなので、私の医療に対する考え方など、サイトの作り込みには力を入れています。あらかじめホームページを見ていただくことで、限られた診療時間でもより患者さんの理解が深まるものになればいいかなと思っています。実際、膵β細胞について質問をしてくださる患者さんもいます。ブログに関しても、スタッフ自らが書き発信することが向学心になるし、モチベーション向上にもつながると思っています。患者さんにとっても、的確な情報が放置していた血糖高値に対する受診のきっかけになるし、実際に大学病院で診療してきた患者より若い、働き盛りの方が多く来院されています。より早期からの治療を目指して身近なクリニックを開院した意義はあったと感じています。

限られたスペースにあって、カウンセリングルームの設置にこだわったとうかがいましたが、稼働状況はいかがですか。

食事療法における的確なアドバイスは糖尿病治療の基本です。当院では管理栄養士も勤務しており、カウンセリングルームで栄養相談を行っていますが、使用頻度は高いです。第2診察室は主に看護師が療養指導に使用していて、注射手技の指導などもそこで行っています。受付、採血・採尿のための処置室、第1診察室、第2診察室、カウンセリングルームが診療の流れに沿って直線の動線で設計されているので、使い勝手はとても良好です。

今回開業をサポートさせていただいた日本医業総研について、率直な評価をお聞かせください。

小森先生からの紹介ということもありますが、結果的に日本医業総研にお願いしてよかったと思っています。相談当初は、私自身、開業すべきか、勤務医を続けるべきかでまだ意思が固まっていない段階でした。どうしたら開業できるのかから始まり、どういうコンセプトを立案するか、自宅付近を拠点としたかかりつけ医として内科全般を診るのか、あるいは糖尿病という専門性を発揮すべきか、といった話し合いを続けるなかから大きな方向性が見えてきて、開業への意思が固まりました。参加した同社主催の「医院経営塾」も、講義の流れが良く、それまでコンサルタントと話し合ってきた内容を再確認し、頭の中でまとめ上げることができました。

院長 税所芳史 先生

院長プロフィール

医学博士
日本内科学会 総合内科専門医、指導医
日本糖尿病学会 専門医、指導医
日本糖尿病協会 療養指導医
日本看護協会 看護研修学校 非常勤講師

1998年 慶應義塾大学医学部 卒業
慶應義塾大学医学部内科学教室 入局
慶應義塾大学病院、埼玉社会保険病院(現JCHO埼玉メディカルセンター)、
清水市立病院(現静岡市立清水病院)、平塚市民病院において内科全般を研修
2002年 慶應義塾大学医学部内科学教室腎臓内分泌代謝内科 入局
糖尿病専門医として研修を開始
2006年 米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(University of California Los Angeles, UCLA)に留学
Peter C. Butler教授のもと膵β細胞を研究
2009年 慶應義塾大学医学部内科学教室腎臓内分泌代謝内科 助教
2015年 慶應義塾大学医学部内科学教室腎臓内分泌代謝内科 専任講師
病棟チーフ
2022年 さいしょ糖尿病クリニック開設
慶應義塾大学医学部 非常勤講師

 

Clinic Data

さいしょ糖尿病クリニック

糖尿病内科 内科

東京都中野区中野5-67-5 SKGT長谷部3F

TEL: 03-5942-9393

https://saisho-dc.jp

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