2023年7月5日

KARADA内科クリニックの院長、佐藤昭裕医師の名を聞いて直感的にその姿を思い浮べる方も多いと思われる。新型コロナの感染症拡大以降、感染症専門医として連日のようにテレビに出演し、その深い知見と機知に富んだコメントが評判を呼んだ。新型コロナが5類感染症に移行した現在でも多くのメディアに出演している。

KARADA内科クリニックが開設されたのは2019年。五反田駅至近とはいえ、テナントビルの10Fに位置するクリニックは、建物外観からは視覚に捉えにくい。屋外袖看板も目立たず、唯一のサインは、エレベーターホールの各階案内だけだ。それにもかかわらず、当院は開業直後から順調に経営を伸ばし、2021年に法人成り。2022年には渋谷院を開設した。さらに、2023年4月には、五反田院を下階に拡張し、消化器内科・内視鏡内科を併設している。

KARADA内科の短期間での急成長の軌跡を、法人理事長兼五反田院院長の佐藤昭裕医師と、法人理事でグループ事務長を担う伊藤励央氏両氏から話を聞いた。

 

総合診療でのジェネラルな評価をゲートに、感染症に高い専門性を発揮

 佐藤先生は感染症の専門医でいらっしゃいますが、臨床研修後に、臓器別のサブスペシャリティを選ばず、総合診療科に進まれた理由からお願いします。

 (佐藤先生)感染症科と総合診療科はすべての臓器にまたがるという意味で共通します。たとえば発熱にしても、その原因が感染症のときもあれば膠原病など他の疾患も疑われます。そういう点で、最初から感染症科という専門特化した診療科に行くよりも、全人的な評価の下で、患者さんのどんな相談にも応じられる医師でありたいと思い、まずは総合診療科に入局したという感じです。

 大学病院における総合診療科の定義と、ご自身のクリニックで実現しようとした、あるいは実践されている総合診療に違いはありますか。

 結構大きいですね。総合診療科は高齢者の併発症に見られるような複数の病気をまとめて診ることに加え、原因が特定できない疾患を多角的な視点から評価し診断をつけるという側面もあるわけですが、五反田という土地柄でしょうか、高齢者比率が低く、比較的若い人の発熱の原因を探り出すなどのケースが多くみられます。この患者層が予想していたイメージとは異なります。若い患者さんが病院ではなくクリニックの総合診療医を選び、そこで何を期待するのかというと、どの診療科にかかったらいいのかわからないという不調の訴えに正しい診断をつけて、適切に振り分けるということが大事だと思っています。それでも9割方は当院で治療が完結できています。

現在の五反田院は常時二診体制で、毎日三桁超えの患者さんに対応されていますが、一般的な内科領域の患者さんと、佐藤先生のご専門である感染症科の割合はどの程度でしょうか。

コロナ禍では感染症が9割と極端な比率でしたが、コロナを外しても6割程度が感染症です。

感染症医の強みを言い表す「Doctor’s doctor」は当院でも機能を果たせていますか。

 これも予想を上回ります。たとえば現在増えている梅毒ですが、一般の内科医は専門の教育を受けてきたわけではないので、治療が苦手というより、やったことがないという人がほとんどです。胃カメラ検査での事前の採血で梅毒への感染が認められた場合など、紹介されるケースが結構あります。

 新型コロナの感染症拡大で、患者さんが受診を控えるなど、診療科によっては大幅な減収を余儀なくされました。3年以上に及ぶコロナ禍を経験した現在、患者さんの受診動機などに変化はみられますか。

 大きく変わったと実感するのは、風邪程度の軽症でもクリニックに出向き診察を受ける方が増えたということです。コロナ感染の心配があってのことだとは思いますが、検査の結果HIVの感染が認められたケースもありました。そうした診断がつけられるのも、当院の強みの一つですし、医療機能が発揮できていると感じています。

意気投合した患者さんを事務長に起用!?

 法人理事でグループ事務長を務める伊藤励央さんからも話をうかがいたいと思います。当院は伊藤さんが開業準備中から参画され、ここまで佐藤先生と二人三脚で急成長させてこられました。まず、佐藤先生との出会いからお聞かせください。

 (伊藤事務長)きっかけは、大学病院勤務時代の佐藤先生に私が患者としてかかったことでした。広告関連企業に勤務していたのですが、胸のあたりの調子がよくないということで近くのクリニックで検査を受けたものの診断が特定できず、東京医科大学総合診療科への紹介状を書いていただきました。当時、医療業界とは無縁だった私は東京医科大学の名前も知らず、「えっ!東大病院に行くほどヤバいの?」と(笑)、それで佐藤先生に診ていただいたら、どうやら単なる心電図のとり間違いだったようで……。

 (佐藤先生)問診票を見たら、伊藤さんとはたまたま年齢が一緒だったんです。私自身、広告関係にも知り合いが多く、共通の友人などもいて意気投合しました。伊藤さんとのプライベートな付き合いが深まり、将来の話をしているなかで、一緒に開業してみようと、お互いに決心しました。医療従事者ではない視点からクリニックをどう創造していくのか、その企画力やコミュニケーション力に期待しました。

 (伊藤事務長)私も新卒で入社した会社に10年間勤務してきて、そろそろ次のステージに進んでみてもいいかなと、新しい世界に挑戦するきっかけを欲していたのだと思います。佐藤先生の、医療のスペシャリティにとどまらない、人間としての徳の高さにリスペクトできました。佐藤先生の診察を何度も受けたなかで得られた納得感。これは医療を必要とする多くの人に届けるべきだと思いました。

 佐藤先生の実現したかった医療や事業の構想を聞かれて、これまでとまったく異なるビジネスフィールドに対してどうアプローチし、どのようなクリニックを創ろうとイメージされましたか。

 ビジネスとしてクリニックを立ち上げるわけですから、まず進むべき方向性から整理しなければならないと思いました。KPI指標の簡単なフレームを作り佐藤先生に肉付けを頼んだところ、そのすべてが見事につながりました。佐藤先生の描くビジョンは、「感染症に罹患しない社会を実現する」というものでしたが、総合診療医のジェネラルな視点で患者さんの全身状態にかかわり、かつ感染症にスペシャリティを発揮するという2つの軸がドライブすることに共感しました。HIV感染症患者さんも少なくありませんが、多くは働き盛りの方ですので、診療時間への配慮などにも心がけるようにしました。

広告行為に制約の多い医療機関で、広告畑出身の強みをどう発揮されましたか。

特段、難しいことを狙ったわけではありません。結局のところ、患者さん目線に立ってどうしたら来院いただけるか、リーチ後に、当院に来たいという動機に働きかける加工をウェブマーケティングの基本にしました。医療提供側の主張ではなく、患者さんの知りたいことを意識しながら制作しました。

マスコミ報道が新型コロナ一色だった期間中、佐藤先生のテレビでの露出が目を引きました。現在も出演番組をお持ちですが、事務長としてマスコミ対応はどのようにマネジメントされていますか。

最初のころは、マスコミからのオファーをすべて一旦私が受けてきました。そのなかで、判断のスピード感やマスコミ交渉の勘所などもわかってきたわけですが、佐藤先生の医師としての個性や保険医療機関としての信用もありますから、バラエティに寄り過ぎた番組はお断りしてきました。

感染症医といっても一般にはあまり馴染みがなかったように思いますが、新型コロナを経験して理解が深まったのではないでしょうか。

(佐藤先生)確かに大分認知されるようになったと思います。同時に風邪程度の軽症でも積極的に受診し検査を受けられるようになったと実感しています。コロナに感染していなくても、当院の検査で別の疾患が見つかるケースが複数あり、思いがけない効果が得られました。

「人ありき」の成長戦略

2019年に五反田院を開設して、翌年には医療法人成り、さらに渋谷院(田中雅之院長)を立ち上げ、この4月には五反田に消化器・内視鏡内科が拡張されました。この展開はあらかじめ成長戦略として考えられていたのですか。

 五反田院の開設前から伊藤さんと二人で「何年後にはこれを達成したい」と構想を練ってきました。とはいっても医療サービスを提供するうえでの前提は人ありきです。分院開設となると、KARADA内科の指針を共有でき、信頼し合える仲間がいてくれて本気でやろうかということになります。渋谷院の田中先生は総合内科と感染症の優秀な専門医ですが、高校の後輩で旧知の間柄だけに、ビジネスパートナーとしても頼りになります。

 五反田院、渋谷院ともに好感度エリアで駅近物件です。当然、賃料単価も高いわけですが、この立地選定はブランディングやイメージ戦略を意識してのことでしょうか。

 五反田院は立地戦略上サブターミナルを強く意識しました。渋谷はサブターミナルとはいえませんが、私たちの提供する医療領域の診療圏は一般的なクリニックに比べて広域をカバーします。性感染症やHIVのほか、ワクチン接種なども住まいのある地元では完結しないことが多いことを考慮すると、良好なアクセスが受診の動機づけになると考えました。

現在、常時二診体制を維持していることもあって、看護師や受付の配置もしっかりとした体制が整っていますが、求めるスタッフ像に対してどのような基準で採用されたのですか。

まず看護師についていうと、五反田院のときは知り合いに声をかけず、全員公募で採用しました。私にとっては人の採用など初めてのことで、何を基準にすべきかなどよく分かっていなかったというのが正直なところですが、一人も脱落者を出さず全員頑張っていただいています。以後の増員は、立ち上がりメンバーからの紹介です。この職場でうまくやっていけるかどうかは皆さんが肌感覚でわかっているので、私がどうこう口出ししなくても良好なチームワークが醸成できています。
 (伊藤事務長)受付に関しては、明確な採用基準を設け、ネガティブチェックの視点で、他人に優しく接する、悪口をいわない、強い口調で話さないというところを大事にしました。人間関係の問題をどのように解決してきたかなども重要事項です。クリニックという狭い空間でのチームプレイでは人との折り合いをつけなければならない場面が多くなります。皆が患者さんにエネルギーを注ぐべき職場で、人間関係がギクシャクすると生産性が下がりますので、その部分は特に気を付けました。
 (佐藤先生)あえて医療に従事した経験のない人を積極的に採ってみようというのもあったよね。
 (伊藤事務長)そうですね。レセプト業務の知識があるから医業が伸展するのかといったらそんなことはありません。患者さんの満足度を高めるサービス提供はもちろん大切ですが、ルーティンに縛られず、我々が「こうしたい」と思ったことについて、一緒に取り組んでくれる主体性と柔軟性に期待したいと思いました。

スキルとチームパフォーマンスの向上のために取り組んでいることはありますか。

渋谷院では組織作りのコンサルタントの支援を受けて、毎月1回スタッフ全員と面談の機会をもつほか、昼休みの1時間にワークショップを開いて進むべきベクトルを確認し共有しています。
 (佐藤先生)五反田院の方は受付事務のリーダーが中心となって勉強会を開いたり、未経験者を集めての講習なども行ってきました。

4月には五反田院をもう1フロア拡張し、末谷敬吾先生が副院長となって消化器・内視鏡内科がスタートしました。

総合診療の視点で外来をやっていて私が苦慮することは、間違いなく患者さんも困っていることです。消化器もその一つで、このエリアに上部・下部の内視鏡に対応できるクリニックが少なく、紹介先が悩みどころでした。内視鏡ではNTT東日本関東病院が有名ですが、診察予約が2~3カ月待ちが常態化していて、だったら自分たちでやろうと。
 末谷先生は高校の同級生で、コロナ以前はよく一緒に飲みに行きました。以前に開業してみたいという相談を受けていたのですが、今回ダメ元で声をかけてみたところ、就任を快諾してくれました。

(小畑吉弘[日本医業総研])今日は私の知らなかった話も聞けて、伊藤事務長の実力をつくづく再認識しました。そんな優秀な事務長を最初から配置できるクリニックなんてまずありませんし、佐藤先生の大胆な人事に英断を感じます。

 (佐藤先生)医療業界にいなかっただけに、伊藤さんの発想には固定概念に縛られない柔軟さがあります。なかには絶対に無理という提案もありましたが、それならいけそうだという考えもあって、私も素直に受け入れました。広告業界ならではの視点なのでしょうが、普通は商品やサービスを買ってもらうためにあの手この手の仕掛けをするのですが、健康はお金をかけても皆が欲しがる、そんな贅沢な業界はないというのです。なるほど医師には考えられない角度からの見方だと思いました。私の周囲にも開業を考えている医師が結構いて相談を受けることもありますが、最初から信頼のおける事務長を入れておいた方がいいとアドバイスしています。

 お二方の関係を見ていると、院長と事務長ではなく、経営のパートナーを感じます。異なる視点での考え方を双方が尊重し認め合うことで、経営的な意思決定と成果によい循環をもたらしているように感じられます。

(伊藤事務長)佐藤先生がすばらしいと思うのは、0から1を創り出すこと。何もないところから大きなリスクを伴う投資をして構想を実現させるような大胆な判断は私には不得手です。ただ、形としてできた器をどう成長させるかが案外得意なのだと佐藤先生と一緒にやってみて気づきました。結果として、人事制度の構築やスタッフの育成、集患のためのマーケティングなどで一定の成果は上げられているのではないかと思っています。

最後に、五反田院は弊社の植村と加藤が、その後小畑がコンサルを引き継いで渋谷院と今回の五反田院拡張をサポートさせていただきました。税務・会計においても弊社グループの税理士法人にお任せいただいております。日本医業総研の提供するサポートについて、忌憚のないご意見をいただけますか。

(佐藤先生)いま何かあったときには、いつも小畑さんに相談しています。私と伊藤さんの二人で解決できないことや、わからないことも沢山あって、今回の消化器の拡張でも、保険点数や内装、役所への届出関係など全部お願いしました。医業総研は税務・会計も長年の実績がベースにあるのでお任せすることに不安はありませんでした。法人のさらなる成長を考え、次のステージに向けた攻めの提案もいただきたいところです。
 (伊藤事務長)開業支援はさすがに安心してお任せできます。立地選定でも、その嗅覚に相当な経験値が感じられましたし、医業総研がダメだということは、本当にやってはいけないということが多々ありました。とても助かっています。

 

医療法人社団 OURS
 KARADA内科クリニック

◎院長プロフィール

理事長・五反田院院長 佐藤昭裕 先生

医学博士
日本感染症学会 専門医・指導医
日本内科学会 認定医
日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医・指導医
日本感染症学会推薦ICD
日本エイズ学会 認定医
日本医師会 認定産業医
臨床研修指導医
身体障害者福祉法指定医
 
2008年 東京医科大学 卒業
2008年 東京医科大学病院 初期臨床研修
2010年 東京医科大学病院 総合診療科
2012年 長崎県五島中央病院 内科 (感染症対策室兼任)
2013年 東京医科大学病院 感染制御部・感染症科 助教(渡航者医療センター 兼任)
2018年 東京医科大学茨城医療センター 感染制御部部長・感染症科科長 講師  東京医科大学病院 感染制御部部長・感染症科 医局長 (東京医科大学茨城医療センター 感染制御部部長 兼任)
2019年 KARADA内科クリニック 開設
2021年 医療法人OURS 設立 理事長就任
2022年 KARADA内科クリニック渋谷院 開設

—-

◎事務長プロフィール

理事・KARADA内科クリニックグループ事務長
伊藤励央 氏

2007 年 立命館大学経営学部 卒業  電通テック入社
2019 年 KARADA内科クリニック 事務長就任

お問い合わせ