開業医の高齢化に伴う事業承継の活発化

現在の病院勤務医の平均年齢が約47歳なのに対し、医科開業医の平均年齢は約60歳で上昇傾向が続いています。また、約10万4,000人とされる開業医のうち、60歳代が29.6%、70歳以上が20.2%と約半数が60歳を超えています(厚生労働省「平成30年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概要」)。

経営者である開業医に定年の制約はなく、80歳を過ぎても現役で診療現場に立たれている先生もいらっしゃいますが、一般的には70歳あたりを一つの区切りと考えられている先生が多く、実際の平均引退年齢は67.5歳とするデータもあります。

生涯現役で地域医療に尽くすことも開業医ならでは人生ですが、体力・気力ともにカクシャクとハッピーリタイアメントを享受し、人生100年時代を過ごすことも成功開業医が選択できるライフプランです。
私どもにおいても、かつて開業をサポートさせていただいた先生方からのご勇退の相談が増えている一方で、厳しさを増す新規開業から可能性の視野を広げ、立ち上がりの不安が軽減される事業継承での開業を検討される先生が増えています。

弊社では医学新聞等の医師向け専門媒体をもつ株式会社メディカルトリビューンとのアライアンスの下、そうした先生のニーズを広域から募集し、事業承継の当事者双方にフェアなマッチングを図る専門チームを組成しサポートに努めています。

クリニック事業承継の基本スキーム

引退と承継をお考えの先生(売主)
地域医療を次代につなぐリタイアメント

引退をお考えになる先生の多くが憂慮されるのが、将来にわたる経済的な安定と、自ら構築された地域医療をどう次代につなげるか、またそうした場合の職員の雇用を守ることです。

個人経営クリニックにおける院長の収入は事業所得であり、引退時に退職所得控除の対象となる退職金の概念がありません。そうした場合の引退後の生活基盤は、預貯金のほか国民年金と節税効果の期待できる小規模企業共済などの受け取りが中心となるわけですが、閉院も無条件でできるはなく、テナント開業の場合の内装現状復帰工事費や、医療機器の処分など多額の費用を要することになります。

また、経営されてきたクリニックは地域の健康を支える社会公器としての継続性・持続性が求められます。院長の引退で地域医療が絶やされることは、地域住民の不利益であり、院長自身にとっても本位ではないはずです。職員や関係者の思いも同じでしょう。院長の意志を確実に引き継ぎ、さらに最新の知見を用いて地域医療の充実を図る、それを託せる方にクリニックを委ねたいものです。

クリニックの事業承継は、単なる事業所の売買ではありません。地域医療をいかに守り続けていくかの課題と解決を承継の当事者間と私どもコンサルタントが共有し、より良い方向に考えていくことから始まります。

クリニック事業継承のプロセス(売主)

  • ① 医院継承についての個別相談(クリニック訪問、オンライン相談)

    競合環境の変化やコロナ禍での売り上げ減少、利益は確保されているものの少子高齢と人口減が懸念される地方都市、院長自身の高齢とリタイア、クリニックを第三者に継承する場合の方法・時期・譲渡金額の設定は……、院長の事業継承にかかわるあらゆるご相談を承ります。事業承継を希望される個別面談では、コンサルタントより以下の事項等をお聞きします。

    1. クリニックの開設からの歩みと近況
    2. 現患者層と疾患の傾向
    3. 土地・建物の状況
    4. 継承の希望時期
    5. 従業員の扱い
    6. 継承後のビジョン など
  • ②財務諸表など必要書類のお預かり

    NDA(秘密保持契約)を締結したうえで、クリニックの現状を正しく認識するために、財務諸表等以下の書類をお預かりします。

    1. 確定申告書(別表含む)
    2. 合計残高試算表(B/S、P/L)
    3. 月計表(レセプト件数、診療報酬)
    4. 診療行為別一覧
    5. 従業員給与台帳
    6. 賃貸契約書コピー(テナント開業の場合)
    7. 建物平面図
    8. リース契約書
    9. 診療所開設届(診療所開設許可書)
    10. 院長(理事長)経歴書 など
  • ③デューデリジェンス(資産評価の適正手続き)

    事業の売り手・買い手双方に中立性・公平性を担保するため、法務、財務、税務、人事等の正しい資産評価を実施。事業の価値とM&Aにかかわるリスクを顕在化したうえで譲渡価額を設定し、継承のスキームを提案いたします。資産評価では以下の項目が主な調査ポイントとなります。

    1. 事業所の実質利益
    2. 固定資産評価
    3. 売上げの推移
    4. 患者層(年齢、疾患傾向、実施している検査内容・治療内容)
    5. 地域の競合状況、人口動態、生活動線の変化
    6. 新規クリニック開設の近年動向 など
  • ④募集活動

    弊社登録の開業予定者のほかホームページでの情報告知、メディカルトリビューンの発行・運営媒体等により買い手候補者の募集を行います。買い手候補者とはNDA(秘密保持契約)を締結したうえで、前記1)~6)の調査結果を加味し、概要書(買い手候補者への説明資料:財務、売上、患者、レセプト、固定資産、リース契約、従業員、現地写真等、約40ページの冊子)と継承先募集広告(匿名ベースのノンネームシート)を作成し、以下⑤のトップ面談を設定します。

    1. メディカルトリビューンが発行する医療業界紙「Medical Tribune」(発行23万部)の紙面および折込み広告、同社webサイト、同社web会員へのメール配信等
    2. 日本医業総研オフィシャルwebサイトでのご案内、プレサポート会員へのメール配信等
    3. 買い手候補者とのNDA締結後の詳細説明並びに買い手候補者との質疑応答
  • ⑤トップ面談

    事業継承の当事者間でのトップ面談は具体的な譲渡条件等の交渉の場ではなく、売り手と買い手双方が現状を認識し、理解を深めることが目的です。とくに売り手の先生にとっては、長年育み守ってこられた地域医療を託すにあたり、相手がどのような経営ビジョン・診療方針を描いているのかなどを確認する機会となります。一度の面談ですべての疑問を解消することは難しいと思われますので、コンサルタントとも相談しながら以下の点を整理しておくといいでしょう。トップ面談を経て、買い手候補が譲渡価格、時期等を明確にした「意向表明書」を示した場合に、相手先に一定期間の優先交渉権を付与することになります。

  • ⑥ 基本合意契約締結

    事業継承について以下の合意形成を図り、契約を締結します。

    1. 事業の譲渡金額
    2. 支払い時期
    3. 継承の時期
    4. 不動産の扱い
    5. 従業員の扱い
    6. リース契約の扱い など
  • ⑦譲渡契約締結

    譲渡契約の締結により、主に以下の項目を確定します。

    1. 譲渡金額及びその内訳
    2. 表明保証
    3. 期間をまたぐ契約行為の取り扱い
    4. その他、譲渡にかかわる詳細の取決め など
  • ⑧従業員への継承告知

    従業員への継承の告知は、継承の3カ月前を目安に行います。早すぎる告知は地域への情報漏洩のリスクが高まる可能性がありますし、継承の直前では職場が動揺し、患者さんの不安を招くことになります。個人経営のクリニックでは、手続き上事業の廃止と同時に従業員は解雇という扱いになりますが、ご本人の意向や引き継がれる先生が継続雇用を希望される場合も含め、3カ月の期間中に調整を図ることになります。医療法人の場合は、従業員の雇用は継続されますが、理事長(院長)の交代をスムーズに行うためにも、適切な時期での従業員への丁寧な説明が必要になります。

  • ⑨引継ぎ期間

    個人経営のクリニックの継承では、保険診療を切れ目なく行うために、遡及届の提出が必要となります。その要件として、継承を受ける院長が継承までの一定期間診察に加わり患者さんの引継ぎ期間を設定することになります。またこの間、現院長の診療スタイルを踏襲しつつ、同時に通院患者さんにも直接告知することで院長交代の混乱を回避し、継承に伴う患者さんの離散を防ぐことができます。継承後においては、逆に前院長に一定期間、非常勤医として診察に加わっていただくケースもあります。

  • ⑩ 閉院にかかわる行政手続き(医療関連)

    個人経営の事業継承にかかわる各種届出等を行います。個人経営の場合は、以下のように、現クリニックの「廃止」を行ったうえで、新院長での「開始」手続きとなります。

    1. 保健所
      ・診療所廃止届
      ・診療所エックス線装置廃止届
      ・結核指定医療機関辞退届
      ・公害医療
    2. 厚生局
      ・保険医療機関廃止届
    3. 都道府県薬務課
      ・麻酔施用者業務廃止届
    4. 保健所等
      ・難病指定医療機関廃止届
    5. 福祉士事務所等・生活保護法指定医療機関廃止届
    6. 都道府県窓口等
      ・指定自立支援医療機関廃止届
      ・小児慢性特定疾患指定医療機関廃止届
    7. 社会保険診療報酬支払基金
      ・特定検診・特定保健指導機関廃止届

    ※上記のほか、「労務・社会保険関連」「税務関連」等の手続きが必要となります。

     

  • ⑪ 医院継承
     

承継での開業・分院展開をお考えの先生(買主)
厳しい開業環境下で注目される事業承継という選択肢

開業立地として多くの先生が希望される都市部では、競合過多の状況を呈し、新規開業の市場環境は厳しさを増す一方です。

新規開業では、開業後の運転資金を含め5,000万円以上の資金を必要とするのが一般的です。それを自己資金のみでカバーできることはまれで、多くは金融機関からの借り入れなどで調達することになります。つまり、開業はゼロベースでのスタートというより、多額の借金を抱えたマイナススタートという見方もできるわけです。

私どもの新規開業サポートでは、通常開業から1年以内の経営黒字化をお約束しています。つまり、1年以内の黒字化の見込みが立たない条件下での開業をお薦めすることはありません。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の懸念や、過密化する競合環境を考慮し、事業継承による開業も積極的にサポートしています。

事業承継開業の優位性

  • 事業承継では、譲受側のコストメリットのみを強調するケースが多々ありますが、大切なのは金額の多寡ではなく、継続的な黒字事業を引き継ぐことでリスクが大幅に軽減され、一般的な新規開業に比べて優位性を発揮します。

    1. クリニックの存在が地域に認知されている
    2. 診療圏の医療需要が把握されている
    3. 一定数の患者さんを引き継ぐことで、立ち上がりからの黒字経営が可能
    4. クリニックの顔ともいえる地域患者を熟知するスタッフの継続雇用が可能
    5. 内装造作、医療機器等の固定資産を時価評価額で譲受することで、初期投資が軽減できる
    6. 金融機関がクリニックの過去の実績を正しく評価することで、資金調達が比較的容易となる

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